あの後、いったん店を出て、喫茶店でくつろいで頭を冷やし、また売場に向かいました。頭を冷やしたのに、あの「多摩のタヌキ」をモチーフにした万年筆の前に立つと、どうしても手に取ってみたくなる高揚を抑えきれなくなり、店員さんを呼びました。とりあえず試し書きさせてほしい、との旨を伝え、手に持ちました。
すると、何ということでしょう。上から何かが降りてきて乗り移ってきたかのように首筋辺りが熱くなり、ついで体全体がホカホカしてきたのです。こんな体験は初めて。こいつはただの万年筆じゃあない・・・。
ふいに、こんな考えが脳裏によぎりました。さっき出会ったタヌキは、多摩丘陵に生きるー菌類から植物、昆虫、哺乳類まで、それこそ何億、何兆というー生きとし生ける者すべての使いだったのではないかと。最近、多摩の自然環境の豊かさを讃歌しているわたしに目をつけ、自分たちの思いを託そうと現れた。さらに、それを具体的に表わす手段として、いま、この万年筆を渡そうとしているのでは・・・。
彼らが渡そうとしているものなら、これを買わないわけにはいかないでしょう、そして、何を書けばいいのかも自ずからわかるというものです。
(灰色と茶色のまったく魅力のない色合いは、何とかしてほしいんですけどね 苦笑)
家で開封し、手に持っていると、燃えたぎる熱い創作意欲が湧き上がってきました。わたしの創作人生の転機になるかもしれません。
タヌキよ、多摩の生きとし生ける者たちよ、これから、すばらしい作品をどんどん書いていくよ、期待しておいてくれ!
<おわり>